じょいとも個展

「大蟹伝説」

断片1 - 近世俳諧と現代美術 -


与謝蕪村筆「奥の細道画巻-旅立ち」(逸翁美術館蔵)


江戸時代初頭、俳諧の世界は「貞門」と「談林」に分かれ競い合う混迷の時代であった。当時多くの俳諧師が趣向を凝らし、超絶技巧俳諧、ミニマル俳諧、コンセプチュアル俳諧とも言えるような多様な俳諧が生まれていた。

そんな中、元禄の世に至って登場したのが松尾芭蕉である。芭蕉は貞門と談林の双方を学び、思考と研鑽、そして後に五紀行と呼ばれる旅の中で発展させ、俳諧を芸術として大成させた。そしてその頂点と言わていれるのが、高名な「奥の細道」である。


所変わって、20世紀の美術は超絶技巧、ミニマル、コンセプチュアルアート(他にもいろいろあるけど)の時代であったと言えるだろう。21世紀に至るとそれらを乗り越え、「良い絵画」とも言うべき新たな境地を迎えつつある。

それはコンセプトの強固さだけでなく、作品としての見応え、奥深さ、面白さとして現れる。今後数十年に渡って育まれるそのトレンドの果てには、芭蕉の奥の細道にも似た芸術的完成を見るだろう。


実は芭蕉の詩風には続きがある。それは、老境に達した芭蕉が奥の細道の芸術的完成をさらに乗り越えて生み出したもので、「軽み」と呼ばれている。

「軽み」の境地は弟子達からも反発され、芭蕉には66人の直弟子がいたが「軽み」の後継者は遂に現れなかった。


本展は、現代美術の歴史が俳諧の歴史を再現するという仮説に立ち、20世紀・21世紀初頭の美術トレンドを乗り越えた先に現われるであろう「軽み」の境地を検証するものである。



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