じょいとも個展

「大蟹伝説」

断片2 - 農村文化の発掘 -


蟹谷地方の風景


文化は都市で生まれ育まれるものである。

万葉は都の貴族たちの文化であり、東山は足利将軍家によって創造され、桃山は織田・豊臣の御伽衆が作り上げ、元禄は江戸に花開いた。

アテネのアカデメイア、アレクサンドリアのムセイオン、世界都市ローマ、フィレンツェのメディチ家に先導されたルネサンス。いずれも都市で生まれ育った文化である。


それを省みるとき、僕らの多くは自分のルーツが都市に無いことに気づく。僕は地方に生まれ、地方に育った。両親や祖父母もそうであり、明治までは農民の家系であった。


僕だけではない。本当は、ほとんどの人は農村にルーツがあるはずだ。


文化は都市で生まれ育つが、農村は文化に乏しいかというと全く違う。農村には農村の文化がある。今まで大衆文化と呼ばれていたものは都市における大衆文化であるが、多くの人は農村文化の中にあった。


しかし現代においては、情報の伝達速度は増し、地方の農村文化が栄える余地は消え去った。ラジオが、テレビが、インターネットが都市文化を国の隅々まで伝え、都市文化が本当の大衆文化となった。そして、各地で育まれていたはずの農村文化は急速に失われつつある。

僕たちは自分のルーツを忘れ、初めから都市文化の中に生きてきたかのように錯覚する。


僕は、今が日本の農村文化を発掘し、アーカイブし、再評価すべきときだと考えている。

僕らの本当のルーツであるそれが、人の記憶から忘れ去られてしまう前に。



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